ミスター伝説①

執筆者:setoguchi

 今は亡き武上四郎氏(元ヤクルト監督、巨人打撃コーチ)から聞いた話。

 ミスターこと長嶋茂雄氏と武さんが、ともにオフだったある日、長嶋さんから武さんのもとに電話がかかってきた。

 「タケちゃん、ゴルフ行こ、ゴルフ!」

 「わかりました!」

ミスターの言うことに逆らうことはできない。武さんは、信濃町の自宅から田園調布へ車を飛ばした。

 「行こう、千葉、千葉!」

2人が向かった先は、ゴルフ場が多く点在する千葉県。ミスターは、通りがかりのゴルフ場の看板のひとつを指差し、こう言った。

 「ここにしよ、タケちゃん、ここ!」

 「わかりました!」 ミスターに逆らうことはできない。もちろん、予約など取っておらず、いわゆる“飛び込み”で、そのゴルフ場の駐車場に車を入れた。

ミスターは、どうするか? 何の迷いもなく、トランクに積んでいたゴルフバッグからドライバー1本を引き抜き、1番ティーへ歩き出す。

 武さんは慌てて、クラブハウスへ向かう。これも大概いつものこと。

 その頃には、お客さんたちは、「ミスターだ!」「ミスターが来た!」と騒ぎ出し、ゴルフ場は騒然となる。

 クラブハウスのフロントに着いた武さんは、支配人に事情を説明すると、たとえ混んでいても、返答は同じだったと言う。

 「もちろんでごさいます、武上様。長嶋様とお回りくださいませ」

 その支配人とともに、1番ティーへ向かった武さんは、これもいつものシーンを見ることになる。

 大勢のギャラリー(ただのラウンド客)に囲まれたミスターが、ドライバーをブンブンと振り回していてこう言うのだ。

 「タケちゃん、遅かったねー、

ウン!」

 ラウンド後、どのゴルフ場もプレーフィーを払おうとしても受け取らなかったという。

 したがって、後日、プレーフィーを振り込むのが、武さんの“仕事”だった。

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