江戸幕府初代将軍の徳川家康は、戦国時代を最後に制し、260年以上に渡る江戸時代の礎を築きました。
どっしりと腰を下ろしている肖像画からは、相当な恰幅の良さがうかがわれます。さぞかし毎日おいしいものを好きなだけ食べていたのでは、と思われますが、真実は全く逆です。
家康は相当な「健康オタク」でした。常に節制を心掛け、暴飲暴食や贅沢品ばかり食べることを避けていました。家臣にも「いいか、生命とは食であるぞ」と小言を欠かさなかったといいます。
家康は白米を口にせず、麦飯を好みました。ある日、近臣が気を利かせ、麦飯の下に白米を隠した膳を出したところ、家康は「この戦乱の世で私1人が贅沢を味わっている場合か」と叱ったといわれています。
麦飯のほかにも、具だくさんの味噌汁や丸干しのイワシなど、極めて質素な食生活を送りました。麦飯は栄養が豊富です。ビタミンB1やカルシウム、ナイアシン、繊維質、カリウムなどが含まれ、糖尿病や大腸ガンの予防になるとされています。より咀嚼する必要があるため、よく噛むことが脳や胃腸の活性化、ひいては老化予防につながるともいわれています。
好んで食べていた発酵食品の味噌は、腸内環境を整えます。イワシには、DHAやEPAといった成分が含まれていて、記憶力・集中力の向上や目の健康維持の役割を果たします。理にかなった食生活といえるでしょう。
また、家康は、キジや鶴などの鶏肉を適度に食べていました。動物性タンパク質を摂取すれば、脳卒中や転倒による骨折を防げるといわれています。
こんなエピソードがあります。同盟関係にあった織田信長から桃を贈られた際も、「たまの贅沢で腹を壊してはならぬ」と口にしませんでした。桃を贈られたのが真冬で、旬の食材ではなかったことにも抵抗があったようです。
剣術や乗馬、水泳など、体を動かすことも積極的に行った家康。徹底的に節制された食生活と運動が、75歳まで生き長らえることができた秘訣だったのでしょう。