アップルの創業者スティーブ・ジョブズは、1977年に発売した『アップルⅡ』で大成功を収めました。ところが、その翌年にIBMがPC市場に参入すると、シェアが奪われる状況に。起死回生には次世代PCの開発が急務でした。
ところが、「新型PCにはシンプルな美しさが必要だ」と主張したため、開発は難航。しかも、当時のジョブズは独善的なふるまいから社内で微妙な立場にありました。
そんな状況下で、ジョブズは鏡に映った自分に問いかけます。
「もし今日が自分の人生最後の日なら、今日やる予定のことを私は本当にやりたいのだろうか?」
問いかけた結果、ジョブズにとって「美しさ」は絶対にやりたいことでした。設計案を何度も却下。そのわだかまりゆえに、新型PC『マッキントッシュ』の発売は大幅にズレ込みます。しかも、需要を見誤ったため、アップルは赤字に。1985年にすべての業務から解任され、ジョブズはアップルを去ることになりました。
しかし、紆余曲折の末、1996年に業績不振のアップルに復帰。洗練されたデザインの『iMac』を大ヒットさせ、その後も『iPod』『iPhone』『iPad』と、デザインの美しさと直感的な操作性が備わった、世界を席巻するヒット製品を世に送り出しました。
本当にやりたいことを追求した結果、一度はアップルを去ったジョブズ。しかし、生涯に渡ってそれを貫き通したことで、最終的には大成功を収めました。
2800人の死を看取った医師・小澤竹俊氏は「“今日が人生最後の日だったら”という意識を持つことで“絶対に譲れない”とこだわっていたことが、実はたいして重要ではないと気づいたりする」と語っています。当たり前に明日があると思うと、物事の優先順位がボヤけてしまう。ハーバード大の研究でも、あらかじめ1日の過ごし方を明確にしておくと、効率や集中力がアップするという結果が出ています。
ジョブズが毎朝の習慣にしていた「もし今日が自分の人生最後の日なら」という鏡のなかの自分への問いかけは、歩むべき道の羅針盤になっていたのです。